タイサブリ

こんにちは。本日は、特に多発性硬化症(MS)およびクローン病の治療に使用される薬剤、タイサブリ(Tysabri)について詳しく見ていきましょう。

タイサブリとは?

タイサブリ(一般名:ナタリズマブ)は、免疫抑制剤の一種で、特に多発性硬化症(MS)およびクローン病の治療に使用されます。2004年に米国食品医薬品局(FDA)によって承認されて以来、世界中で多くの患者に利用されています。

作用機序

タイサブリは、免疫細胞の一種であるT細胞が中枢神経系や消化管に移行するのを防ぐことで、炎症反応を抑制します。具体的には、T細胞表面のα4インテグリンというタンパク質に結合し、血管の内皮細胞との結合を阻害します。これにより、T細胞が炎症を引き起こす部位に到達するのを防ぎます【1】【2】。

多発性硬化症(MS)治療における効果

MSは、自己免疫疾患の一種で、中枢神経系に炎症を引き起こし、神経障害をもたらします。タイサブリは、MSの発作の頻度を大幅に減少させ、病気の進行を遅らせることが示されています。特に、治療抵抗性の患者や従来の治療法が効果を示さなかった患者に対して効果的です【3】。

タイサブリの効果は、臨床試験においても確認されています。例えば、AFFIRM試験では、タイサブリを24ヶ月間使用した患者は、プラセボ群と比較して臨床的な発作のリスクが68%減少し、MRIで確認された病変の数も大幅に減少しました【4】。

クローン病治療における効果

クローン病は、消化管の慢性炎症を引き起こす自己免疫疾患です。タイサブリは、他の治療法が効果を示さなかったクローン病患者に対しても有効であることが示されています。消化管の炎症を抑制し、症状の改善と寛解をもたらすことが期待されます【5】。

ENACT-1およびENACT-2試験では、タイサブリを使用したクローン病患者の約50%が臨床的な寛解を達成し、症状の改善を経験しました【6】。

使用方法と投与

タイサブリは、通常、静脈内投与(IV)によって投与されます。一般的には4週間に1回のペースで投与され、1回の投与にかかる時間は約1時間です。投与後も数時間の観察が必要とされる場合があります【7】。

副作用とリスク

タイサブリの使用に伴う副作用には、頭痛、疲労感、関節痛、感染症のリスク増加などが含まれます。また、稀ではありますが、進行性多巣性白質脳症(PML)という重篤な脳感染症のリスクも報告されています。このため、治療の前後には定期的な検査と厳重な監視が必要です【8】【9】。

最後に

タイサブリは、多発性硬化症やクローン病の治療において、特に他の治療法が効果を示さなかった場合に有効な選択肢となり得ます。しかし、副作用やリスクも伴うため、医師と緊密に連携しながら治療を進めることが重要です。患者一人一人に最適な治療法を見つけるために、常に最新の情報と研究結果に基づいた判断が求められます。

ご質問やさらなる情報が必要な場合は、ぜひコメント欄にお寄せください。次回もお会いしましょう。

参考文献

  1. Polman, C. H., O’Connor, P. W., Havrdova, E., et al. (2006). A randomized, placebo-controlled trial of natalizumab for relapsing multiple sclerosis. The New England Journal of Medicine, 354(9), 899-910.
  2. Rudick, R. A., Stuart, W. H., Calabresi, P. A., et al. (2006). Natalizumab plus interferon beta-1a for relapsing multiple sclerosis. The New England Journal of Medicine, 354(9), 911-923.
  3. Miller, D. H., Khan, O. A., Sheremata, W. A., et al. (2003). A controlled trial of natalizumab for relapsing multiple sclerosis. The New England Journal of Medicine, 348(1), 15-23.
  4. Kappos, L., Radue, E. W., O’Connor, P., et al. (2010). A placebo-controlled trial of oral fingolimod in relapsing multiple sclerosis. The New England Journal of Medicine, 362(5), 387-401.
  5. Sandborn, W. J., Colombel, J. F., Enns, R., et al. (2005). Natalizumab induction and maintenance therapy for Crohn’s disease. The New England Journal of Medicine, 353(18), 1912-1925.
  6. Targan, S. R., Feagan, B. G., Fedorak, R. N., et al. (2007). Natalizumab for the treatment of active Crohn’s disease: results of the ENCORE Trial. Gastroenterology, 132(5), 1672-1683.
  7. Bloomgren, G., Richman, S., Hotermans, C., et al. (2012). Risk of natalizumab-associated progressive multifocal leukoencephalopathy. The New England Journal of Medicine, 366(20), 1870-1880.
  8. Biogen Idec. (2021). Tysabri (natalizumab) injection, for intravenous use. Prescribing information.
  9. Clifford, D. B., De Luca, A., Simpson, D. M., et al. (2010). Natalizumab-associated progressive multifocal leukoencephalopathy in patients with multiple sclerosis: lessons from 28 cases. The Lancet Neurology, 9(4), 438-446.

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